◼️ソイヤ、ソイヤ、ソレ、ソレ
あの頃、そんな掛け声が街に響いていた。
細眉に剃り込みを入れたいわゆるヤンキーたちが
まだ幅をきかせていた時代の話だ。
兄もそんな一人だった。
学生の頃、兄は先生からよく言われたらしい。
「妹を見習え」
その妹が私である。
勉強は私の方ができた。
素行も私の方がよかった。
客観的に見れば、私の圧勝だったと思う。
私の同級生、そして部活の先輩は、
お兄さんカッコいいね。
いいね、泰子さんはあんなお兄さんがいて。
とよく私に話しかけてきた。
腹立たしいことに、それは事実だった。
■ 兄の武器はふたつだった
イケメンであること。
そして、人を笑わせるのがうまいこと。
学歴でもない。
資格でもない。
生まれながらに持っていた
その二枚のカード。
兄はその武器で人生を切り開いていった。
職を転々とした末に
ドライバーとなった兄が出会ったのは、
両親が開業医という女性だった。
格差婚どころの話ではない。
元ヤンキー。
実家は貧乏。
それでも彼女は兄を選んだ。
今振り返ると、
イケメンであること。
人を笑わせる力があること。
この二つは、世の中で思っている以上に
強力な才能だったのだと思う。
■ その後の兄の人生
高級住宅街に百坪の土地。
建坪五十坪のこだわりの注文住宅。
高級車。
家族で海外旅行。
大型犬。
同じ親から生まれた妹には、
なかなか縁のない世界だ。
兄の子供たちもそれぞれ家庭を持ち、
今では孫にも恵まれている。
還暦を迎えた今も、兄は現役のドライバーだ。
二年前には胃がんで大きな手術も経験した。
妹としては、
もう少しゆっくり暮らしてほしいとも思う。
でも本人にその気はないらしい。
相変わらず働いている。
お嫁さんにも、
そのご実家にも頭が上がらないようだが、
それもまた兄らしい。
■ 人生とは、本当にわからない
子供の頃から、
「努力すれば報われる」
そう教えられて育った。
だから勉強もしたし、
真面目にも生きてきた。
もちろん、
それは無駄ではなかったと思う。
ただ兄を見ていると、
それだけでは説明できない人生もあるのだと感じる。
人を惹きつけること。
人を笑顔にすること。
そういう才能が人生を大きく動かすこともある。
あのツッパリ兄ちゃんが、
今では孫に囲まれ、大型犬と暮らしている。
その姿を見ると、不思議と悪い気はしない。
子供の頃は、いつも兄よりも上にいたような気がしていた。
勉強も私の方ができたし、
先生も私を褒めてくれた。
なのに気がつけば、
高級住宅街の大きな家で
大型犬と暮らしているのは兄の方である。
どうも人生は、
通知表だけでは決まらないらしい。
だから私は今も、兄の下にいる。
人生とは、本当にわからないものである。
前略、
未知の途中より
泰子

良いものに出会ったとき、そっと感謝を形にできる人が好きよ。画面の向こうへの小さな会釈——お帰りの前に、忘れていないかしら?
押せばアラ還主婦たちのつぶやきに会えるわよ