
最初のターゲットは、身近な「無印良品」か、それとも「コメダ珈琲店」か。
結局、家のすぐ近くにあって、
シロノワールを食べる自分の姿が一番しっくりきた「コメダ」に決めた。
当時100株で、だいたい20万円くらいだったかしら。
それを買う時の緊張感といったら!
清水の舞台から飛び降りるなんてものじゃない。
背中のチャックを誰かにグイッと上げられたような、
あるいは未知の海へシュノーケリングもせずにダイブするような、
恐ろしさと高揚感が混ざり合った、妙な心地。
買ったら買ったで、今度は値動きが気になって、掃除機をかける手も止まりがち。
スマホを覗いては、1円の上下に一喜一憂する日々が始まった。
当時の私は、自分が本当は何をやっているのか、
その本質なんて露ほども理解していなかったと思う。
YouTubeを覗けば、画面の中では派手なグラフを背負った人たちが、
「数日でいくら抜いた」だの「ここで利確するのが鉄則」だのと、
威勢のいい言葉を並べている。
若くて血気盛んな彼らの「短期トレード」の発信は、
どうにもキラキラと眩しく、そして刺激的。
SNSのタイムラインを流れる「億り人」なんて派手な成功談に、
ついつい目を奪われてしまうのは、
少しでも「小金」を増やしたい主婦の悲しい性というものかしら。
「配当金で細く長くなんて、まどろっこしいわ」
20万円投資して、配当が年に4,000円そこら。
それなら、株価がパッと1万円上がったところで売ってしまった方が、
ずっと効率がいいし、美味しいものだって食べられる。
そんなふうに、数字の表面だけをなぞって、
分かったような顔をしていた。
当時の私にとって、株主になるということは、
単なる数字のやり取りだけではなかった。
権利確定日まで持っていれば、あの憧れの「株主優待」が手に入る。
「これこそが、賢い奥様投資家というものじゃないかしら」
そんな素人らしい、けれど純粋な憧れを抱きながら、
私は指をくわえて値動きを見守った。
そして、念願の優待権利を手に入れ、
さらに株価がわずかに跳ね上がった瞬間。
私は、手元に1万円ほどの利益を残して、
鮮やかに(と、当の本人は思っていた)コメダの株を売り払ったのである。
「1万円も儲かっちゃったわ!」
手数料を引けば、ちょっと豪華なホテルランチ代が出る程度。
それでも、自分の目利き(のつもり)で得たその果実を、
私は鼻高々で捥ぎ取った。
ところが。。。
本当のドラマはその直後に用意されていた。
私が売り抜けた直後、世界をあの「新型コロナウイルス」
という正体不明の怪物が襲ったのである。
街から人の姿が消え、飲食店の灯が次々と消え……。
もしあのまま、のんきに持ち続けていたら……と思うと、今でも背筋が凍る。
奇跡的なタイミングで「勝ち逃げ」してしまった私。
「私って、もしかして相場の女神に愛されているんじゃないかしら?」
そんな危険な自惚れを抱いたまま、
私はさらなる深みへと足を踏み入れていく。
まさかその直後、世界が一変する大嵐の中で、
自分の無力さと、投資の本当の厳しさを思い知らされるとも知らずに。
※本記事は筆者個人の投資経験・考え方をもとに書いたものです。特定の銘柄や投資手法を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴います。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いいたします。